11世紀のバグダード出身のイブン・ブトラーンという、おそらくキリスト教徒のアラブ人の医学者が記した『健康全書』Tacuinum sanitatisとして知られる、食物と健康について記された書物があります。もともとアラビア語で記されたこの書物は、のちにラテン語に翻訳され、中世からルネサンス期に至るまでヨーロッパ各地で様々な写本に筆写され、のちには挿絵も入れられた人気のあった書物です。それを写本学の視点から詳細に読み解きながら、時として食物に関する愉快な解説も紹介しながら、漢方にも通じる食と健康についての近代以前のヨーロッパの人々の考え方を覗いてみることにしましょう。